2021年6月号 D項

ディベート&ディスカッション中心の英会話学校

2021年6月号 D項

Debate: Topic and Outline
毎月行われているYYクラブのディスカッションの概要(英訳と日本語訳あり)

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>>> 当院論評 Comments By Chiba

本誌C項で登場した、イスラエル歴史学者ハラリ氏に再度登場願うこととする。何故なら彼は昨年「新型コロナウィルスは世界をどの様に変えたのか」と題し、感染防止を狙いとする監視技術の活用などは慎重に展開せねばならないとして、世界で注目を浴びた。また、かれは日本経済新聞に「パンデミックから1年を経た今日、今の世界が直面する課題について」を寄稿したことで、日本人にも注目されている、これを取り上げ、紹介する。歴史学者は言う「大局的に歴史を見た時、新型コロナウィルスが世界で大流行したこの1年を「どう総括できるであろうか。多くの犠牲者が出たため、自然の猛威に遭遇した人間の無力さを痛感した人も多い。しかし、実際には人間は決して無力ではないことが示された。感染症はもはや人の手に負えない自然の脅威ではなく、科学で手なずけられる試練になった。それでも多くの死者や苦難が続いているのは政治的判断を誤ったからだ。

人類は過去、黒死病(ペスト)などの感染病に見舞われた。また、近年では1918年のスペイン風邪(インフルエンザ)の時も、世界有数の科学者でさえそのウィルスの「招待を特定できずにいた。従って、多くの対策は無効であった。しかし、今回の新型ウィルスでは状況が一変した。新たな感染症の疑い浮上した翌月(昨年1月10日には科学者らが原因ウォルスを特定し、ゲノム配列まで解析し、インターネット上に情報を公開した。また、数か月後にはどの対策が感染を遅らせ阻止できるかを明らかにした。しかも、1年経たぬうちに有効なワクチンを開発、量産を実現した。これが現状であり、人間がかくも優勢であったことはない。

しかし、今回は問題も残した。今回はデジタル監視ツールの普及で
しかし、政治的には、ここに問題がある。独裁制への危険だ!

以下にハラり博士のその様にならなための原則を聞きたい。

 

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>>> 当院翻訳 Translated By Hagiwara

One year after the pandemic. What is the world’s challenge? Contributed by historian Harari.

Three Principles to prevent State Power
2021/03/09 Nikkei Newspaper

 The pursuit of three basic principles can help prevent digital coercive politics.

The first is the handling of data about citizens. In particular, data collected on physical conditions must be used to support citizens. It should not be used to manipulate, control, or harm citizens.

My family doctor has a lot of private information about me, but I allow him to use it because I trust him to use it for my benefit. My family doctor should not sell this data to any company or political party. Neither should any type of “pandemic watchdog” that may be established in the future.

Second, surveillance should always be a two-way street. One-way surveillance from top to bottom leads to dictatorship. Therefore, when we strengthen surveillance on individuals, we should also strengthen surveillance on governments and large corporations.

For example, governments are handing out huge benefits to combat the Corona crisis. As a citizen, I would like to be able to see who receives the money, how much, and who decides where the money is allocated. I hope that the money will be delivered to companies that desperately need it, not to large corporations close to the government.

Third, too much data should not be collected in one place. This will be the same even after the Corona convergence. A data monopoly can easily lead to dictatorship.

If biological data of citizens is to be collected to prevent a pandemic, it should be handled by an independent public health agency, not the police. The collected data should be kept separate from other data held by the government and large corporations. Even if it becomes inefficient, it is good to make surveillance that much more difficult. It is good to leave inefficiency behind to prevent the rise of digital dictatorship.

The new corona has been a great success for science and technology, but it has not solved the crisis. The new corona has now morphed from a natural disaster into a political challenge.

Even though the death toll from the Black Death was in the millions, no one expected much from the King at the time. The first wave killed about one-third of the entire British population, but it did not lead to the abdication of the King of England. Since it was obvious that the rulers could not stop the spread of the disease, there was no one to blame.

Today, there are scientific means to stop the spread of infection. Therefore, the fruits of scientific progress have brought tremendous responsibility to politicians. The problem is that too many politicians fail to fulfill this responsibility. Former President Trump of the United States and current President Bolsonaro of Brazil downplayed the situation and did not listen to the experts. Hundreds of thousands of lives that could have been saved have been lost because of this.

My home country, Israel, leads the world in vaccinations, but due to an early error in judgment, it has the seventh highest number of infected people per capita in the world. In order to cope with the situation, the current administration has struck a deal with the US pharmaceutical giant Pfizer to provide vaccines for the population in exchange for providing data. This shows that citizens’ data is now one of the nation’s most valuable assets.

One of the reasons for the split between science and politics in the response to the pandemic was that scientists cooperated internationally, while politicians tended to be antagonistic. Scientists from around the world worked together in the face of an uncertain future, sharing information generously, and sharing research results and findings. However, politicians have not been able to cooperate. The U.S. and China withheld important information and accused each other of spreading conspiracy theories. There is a shortage of medical supplies, which has led to a war between the countries.

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(ご参照:)以下は和文原稿です。 (整理:リ)

特集――パンデミック1年、世界の課題は、歴史学者ハラリ氏寄稿 コロナは科学が救う、政治はどうか

日本経済新聞 2021年3月9日㈫

大局的に歴史をみたとき、新型コロナウイルスが世界で大流行したこの1年をどう総括できるだろうか。多くの犠牲者が出たため自然の猛威に遭遇した人間の無力さを痛感した人も多い。だが実際には人間は決して無力ではないことが示された。感染症はもはや人の手に負えない自然の脅威ではなく、科学で手なずけられる試練になった。

それでも多くの死者や苦難が続いているのは政治判断を誤ったからだ。人類は過去、黒死病(ペスト)などの感染症に見舞われた際、その原因や防御手段を解明できなかった。1918年のインフルエンザ(スペイン風邪)の時も、世界有数の科学者でさえそのウイルスの正体を特定できず、多くの対策は使い物にならず、有効なワクチン開発の試みも失敗に終わった。

新型コロナでは状況が一変した。新たな感染症の疑いが浮上した翌月の昨年1月10日には科学者らが原因ウイルスを特定、ゲノム(全遺伝情報)配列まで解析し、インターネット上に情報を公開した。数カ月後にはどの対策が感染を遅らせ阻止できるかが明らかになり、1年もたたぬうちに複数の有効なワクチンを開発、量産を実現した。人間と病原体との闘いで、人間がかくも優勢だったことはない。

バイオテクノロジーの空前の成果とともにIT(情報技術)の威力も特筆に値する。スペイン風邪の際は感染者は隔離できたが、発症前や無症状感染者の動きは追跡できなかった。国民に数週間自宅にいるよう命じていたら経済は破綻し社会は崩壊し、大規模な飢餓を招いていただろう。

今回はデジタル監視ツールの普及で感染経路の監視や特定が容易になり、感染者だけを効果的に隔離できるようになった。自動化とネットのおかげで、先進国ではロックダウンができた。

農業をみてほしい。食糧生産では何千年も人口の約9割が農業に従事してきたが、もはや先進国は違う。米国の農業人口は全体の1・5%だが、それで全国民を賄い、食糧輸出国にもなっている。病気になる心配のない機械がほぼ全ての農作業を担うため、ロックダウンは農業にほとんど影響を及ぼさなくなった。

黒死病が大流行した頃の小麦畑の収穫期に農民に自宅にいろと命じたら人々は飢えるし、畑で収穫しろと命じれば感染が広まる恐れがある。どうしたらよいのか――。今なら全地球測位システム(GPS)に誘導される1台のコンバインが畑の小麦を効率的に収穫する。感染リスクはゼロだ。1349年の農民1人当たりの平均収穫量は日量約5ブッシェルだった。2014年はコンバイン1台で3万ブッシェルと1日当たりの最高の収穫量を記録した。おかげで主要農作物の世界生産量はコロナ禍でも大きな影響はなかった。

食糧は時に数千キロメートルも輸送する必要がある。歴史的に貿易は常にパンデミック(疫病の世界的大流行)の元凶の一つだった。黒死病は東アジアからシルクロード経由で中東まで至り、ジェノバの商船で欧州に運ばれた。荷馬車には御者が欠かせず、小さな商船の運航にも船員数十人が必要で、混み合う船内や宿屋は病気の温床となった。貿易が死に至る脅威を拡散したのだ。

昨年、海外旅行者は激減したが、海上貿易量は前年比4%減だった。人間がほば介在しなかったからだ。1582年の英国商船の合計輸送能力は6万8000トンで、約1万6000人の船員を必要とした。今のコンテナ船は自動化され、新型なら搭乗員22人で約20万トンの物資を輸送できる。

自動化とデジタル化のサービス部門への影響も大きい。かつてオフィスや学校、裁判所、教会がロックダウン下でも機能するなど思いもしなかった。人間は以前はリアル(現実)の世界だけで生活し、致死率の高いウイルスが広がれば逃げ場はなかった。今は多くの人がリアルとバーチャル(仮想)という2つの世界で暮らす。

もちろん全てをデジタル化はできない。この1年で看護師、清掃作業員、運転手、配達員など多くの低賃金の仕事が文明の維持に重大な役割を担っていることが判明し、リアルの世界の重要なライフラインになった。

一方、オンラインへの移行が進むに従い新たな危険が浮上している。この1年で特筆すべきはネットが「壊れなかった」ことだ。実際の橋は通行量が突然増えれば崩壊する可能性がある。昨年、学校やオフィス、教会などが一気に活動の場をネット上に移したが、ネットは持ちこたえた。ITの活用でウイルスへの私たちの耐性は高まったが、マルウエアやサイバー攻撃には、はるかに脆弱になった。

「次の危機は何か」とよく聞かれるが、筆頭候補はデジタルインフラへの攻撃だ。新型コロナ感染者が数百万人に上るのに数カ月かかったが、デジタルインフラは1日で崩壊するかもしれない。コロナ禍は、デジタルインフラの脆弱性という科学と技術の限界も浮き彫りにした。

科学は政治に代わることもできない。政策判断を下すには多くの利害や価値観を考慮する必要がある。どの利害や価値観の方が重要かを判断する科学的方法はなく、かつ決める科学的方法もない。ロックダウンを決めるのに「しなかったらいかに多くが感染するか」と問うのでは不十分だ。「実施したらいかに多くがうつ、栄養失調、失職に至るか」なども問う必要がある。

データを正確で信頼できるとしても「何を重視し、何が重要かを誰が決めるのか」を常に問うべきだ。これは科学ではなく政治の仕事だ。政治家が医療、経済、社会面の検討すべき事項のバランスをとり、包括的対策を打ち出さなければならない。

技術者もロックダウン下の社会機能を維持できるよう新たなデジタルプラットフォームや感染の連鎖を防ぐ監視ツールを開発している。だがデジタル化と監視は私たちのプライバシーを脅かし、前例なき強権体制に道を開く。昨年は大規模な監視が一段と正当化され一般的になったが、人々のためになる監視とディストピア(暗黒郷)の間の最適な均衡点を見いだすのは技術者ではなく政治家の仕事だ。

強権阻止への3つの原則

デジタル技術による市民の監視システムの使用において強権政治とならないためには以下の3つの原則を追求し、守らねばならない。

第1:市民に関するデータの扱いだ。特に身体の状態に関するデータを収集する際は、必ず市民を支援する場合のみにそれを活用されなくてはならない。市民を操作し、支配したり、危害を及ぼしたりするためであってはならない。

私のかかり付け医は私のプライベートな情報を多く持っているが、私のためのみに使うものと信頼しているので認めている。かかり付け医は、このデータをいかなる企業にも政党にも売ってはならない。今後、設立されるかもしれないどんなタイプの「パンデミック監視当局」もそうあるべきだ。

第2:監視は常に双方向でなければならない。上からの下への一方通行の監視は独裁政治招く。このため個人への監視を強化する際には、逆に、必ず政府や大企業への監視も強化すべきだ。例えば各国政府はコロナ危機対策として巨額の給付金を配布している。私は一市民として誰がどれほど受け取り、資金の配分先を誰が決めたのかが分かるようにして欲しいと考えている。政府に近い大企業よりも、切実に必要としている中小企業に届けて欲しいと願っている。

第3:多くのデータを一か所に集めすぎてはならない。これはコロナ収束後も同じだ。データの独占は独裁政治を招きやすいからだ。パンデミック阻止のために、市民の生体データを収集するなら警察ではなく独立した公衆衛生機関が担当すべきだ。収集データは、政府や大企業が保管する他のデータとは別に保管することが必要だ。これにより保管が非効率になっても、監視がその分難しくなるのは良いことだ。デジタルによる独裁制の台頭を阻止するには非効率さを残す方が良い。

 

新型コロナで科学と技術は大成功を収めたが、その独裁政治への危機は解決していない。新型コロナは今や自然災害から政治的課題に変質した。

黒死病の死者が数百万人に上がっても当時、誰も王に多くを期待しなかった。第1波で英全人口の約3分の1が死亡したが、イングランド王が退位する事態にはならないのは明白だったため責任を問う声は上がらなかった。

現在は感染拡大を阻止する科学的手段はある。それだけに科学的進歩の成果は政治家にとてつもない責任をもたらすようになった。この責任を果たさない政治家があまりに多いのが問題だ。米国のトランプ前大統領やブラジルのボルソナロ現大統領は事態を軽視し、専門家の意見にも耳も傾けなかった。そのために数十万人を救えたはずの命が失われた。

私の母国イスラエルはワクチン接種で世界の先頭に立っているが、初期の判断ミスから人口当たりの感染者数は世界7番目だ。現政権は事態に対処するため米製薬大手ファイザーとデータを提供する代わりに人口分のワクチン提供を決めた。このことは市民のデータが今や国家の貴重な資産の一つになったことを示している。

パンデミック対応で科学と政治の明暗が分かれた一因は、科学者は国際的に協力したが、政治家は反目しがちだった点にある。世界中の科学者らは先の見えない状況で研究に取り組み、情報を惜しみなく共有し、研究結果や知見を共有した。だが政治家らは協力体制を築けていない。米中は重要な情報を隠し、互いを陰謀説を広めたと非難し合った。不足する医療物資を巡っては各国間の争奪戦にまで発展している。

(また来月~)

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